「南蛮渡来」 五
5.「アジテーション」
街の喧騒のような効果音からファンキーなギターフレーズに「CHU、CHU、……」とファルセットボイスでリズムに乗る中、江戸アケミが物憂く「忘れられたアジテーション」と聴く者を煽りながら、ファン・ナンバーを歌い出します。
「俺の身体を通り過ぎる/行き場の無い恨みを/人ごみの中、今日もはらす/もうこれ以上お前に/話す事はは何ひとつ無い/アジテーション」と、現代詩と言っても過言ではない歌詞を何かに八つ当たりするのをじっと堪えたかのように江戸アケミが吐き出すように歌います。
そして、ギターの挑発的なフレーズの後に「ふりかかる灰をかきわけ/投身自殺だ」と衝撃的な歌詞を歌います。
これはねもう、現代詩です。この詩は江戸アケミの文学的な才能の片鱗が見事に消化した強烈なナンバーです。
そして、この「アジテーション」は「忘れじのアジテーション」というリフレインで終わりを迎えます。
「アジテーション」と曲名がついているだけあって、この曲は、直接的に聴く者を「煽る」ことはなく、間接的に聴く者を「煽る」どこか、暗鬱な曲となっています。ここにも江戸アケミのやり場のない鬱屈した思いが凝縮されていて、このナンバーにも江戸アケミの《存在》論的な大問題を抱えてしまった人間というものの哀しき生きものの思いが控えめながらも強烈に放たれています。